後部座席ではジャンとジュリオが頭を寄せ合って眠っている。
大量のお土産を積んでもまだ余裕をもって座れるシートに、こういう時は無粋なセダンタイプの車がやはり都合が良い、と思う。スポーツカーではこうはいかない。
双子のように仲良く、もうとっくに成人を過ぎた二人は子供のような寝顔で背もたれに身体を預けている。
その腕の中には色と細部のディテールが少し違うだけのお揃いのくまのぬいぐるみ。ジャンはハニーブラウン、ジュリオはローズピンクを。
今日一日引きずり回されて幾分かくたびれた大きなぬいぐるみは変わらない笑顔だ。しっかりと抱き締められたくまは無言で、楽しかったね、と語りかけている。
「眠っているね」
後部座席を身体ごと振り返って見つめていたベルナルドは、こちらに向かってふふ、と笑うと囁く声でそう言った。その顔には疲れがにじんでいたけれど、間違いなく嬉しそうだった。
「今日はすまなかったね、ラグトリフ。丸一日付き合わせてしまった」
「いいえ。僕も楽しかったですから」
「そうかい?」
ベルナルドは助手席でそう言いながらふうとあくびを噛み殺した。
「貴方も少し眠ったらいかがです?着いたら起こしますよ?」
「いや、お前に運転させておいてそれは悪いよ」
一応気を遣ってそう返した手前か、しばらくベルナルドは眼鏡を外して目元をマッサージしたり頻繁に髪をかき上げたりして睡魔と闘っていたが、それもすぐに安らかな寝息に取って代わった。見栄を張らなくてもいいのに、とおかしくなって静かな車内で声を出さずに一人笑った。
なんて幸せな夜だろう。
「ジャンカルロさん、ジュリオさん、起きて下さい」
「んあ?もう着いたのけ?」
「しーっ。オルトラーニさんがまだ眠っているので、静かにね」
立てた指を口元に当ててそう小さく囁くとジャンは目を擦りながら頷き、助手席の方へ身を乗り出して覗きこむと、
「ほんとだ」
と言って笑った。
ジュリオは即座にしっかりと覚醒したらしく、黙ってジャンを見つめてまばたきを繰り返している。
「お疲れだな。今日は一日引っ張り回したもんなあ」
先程のベルナルドと同じような事を言ってジャンは優しい目でベルナルドを見ていた。それから笑顔のままでベルナルドの耳元へ顔を近付ける。
「ありがとな、ベルナルド」
ちゅっと軽い音を立てて耳の下にキスをする。
それを見ていたジュリオはジャンのシャツの裾を引っ張って控えめに言う。
「ジャン、さん。俺も……」
「ん」
ジャンが身を引くと今度はジュリオが、ジャンと同じように運転席と助手席の間から顔を出してベルナルドの頬へ唇を当てる。
「ベルナルド……ありがとう」
二人で顔を見合わせて照れくさそうに笑い合う。
ベルナルドがこの事を後で知ったら眠っていた事をさぞ悔しがるに違いない。可哀想だから黙っておいてあげよう、と思ってひそかに笑いながら車の外へ降りる。外から後部ドアを開けてやると、ジャンがくまと一緒に外へ飛び出てきた。ラグもサンキュー、と言ってジャンは眩しい笑顔を見せた。ジュリオは自分でドアを開けて、やはりくまを脇に抱えて車を降りる。
大きなくまとたくさんのお土産を持った二人は彼らの住み処へのわずかな道のりを歩き出す。途中で振り返ったジャンがこちらに大きく手を振って、いや、くまを振り回してきた。
それに手を振り返して、やがて彼らの後ろ姿が見えなくなったところで車に戻った。
ベルナルドはまだ熟睡している。眠りの浅い彼にしては珍しく深い眠りに誘われているようだ。街灯に照らされた白い顔は心地よさそうで、眉間にシワも寄せられていない。
スリーピングビューティは幸せそうに夢の中だ。
「楽しかったですね、ベルナルド」
わずかに開かれた唇にそっと口付けを落とす。押し当てるだけの軽いキス。
自分はベルナルドの王子様ではないから、これは眠りを覚ますキスではない。同じ魔法でも、そう、これは目覚めないようにするためのおまじないだ。ベルナルドの身体をうちのベッドへ運ぶまで、彼が安らかに眠っていられるといい。
アクセルを踏んで車を発進させる。静かに滑り出す車の振動に揺られながら、ベルナルドは少し微笑んだ。
魔法の効果は絶大だ。悪夢も今日ばかりは彼を捕まえられないだろう。
あの夢の国に行くと、誰もが魔法を使えるようになるのかもしれない、と思った。
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