夜、飲み物を買いに近所のコンビニへ出掛けました。
部屋からエレベータで1階へ降り、エントランスに着いた時、オートロックのガラス戸越しにジョットの姿が見えました。
彼はたった今車から降りて来たところで、運転席に座る知人らしき男と話しています。
パワーウィンドウを下げたその男(どうやら日本人ではないようです)は、ジョットと少し言葉を交わした後、
身を乗り出してジョットの頬に軽くキス。 それから去っていく車に向かってにこやかに手を振るジョット。
…何なんですかあの男はっ!!
「おかえりなさい」
自動ドアの手前にもたれてジョットに声を掛ける。
振り返ったジョットの顔はまったく悪びれる素振りもない、上機嫌な笑顔でした。
「骸!ただいま」
「今の男は誰ですか?」
「友達だよ?レストランの経営をしてる人」
「随分親しげでしたが?」
「…ああ。キスの事?あんなのただの挨拶だよ」
あははは、と笑い飛ばされました。
貴方にとっては挨拶でも、向こうはそう思っていない場合だってあるのですよ!
大体、恋人の前で違う男とキスするとはどういう了見ですか!
…一度彼に、どこからが浮気になるのか確かめたいと思いつつ、未だに怖くて聞けずにいます。
あっさり、最後まで関係を持ったら、とか言いそうですよね。
口に出さずとも不満が顔に出ていたのか、ジョットはそうは言うけど、と反論してきました。
「俺、この前見ちゃったんだけどな〜」
「…な、何をです?」
「新しいスタイリストの女の子に言い寄られてるところ」
確かに、そんな事もありましたね。
どうして貴方が見ているのですか…。
今度新しくうちの事務所に入ったその娘は、ふわふわと可愛らしい容姿に反してはっきりと物を言う芯の強い子で、
ぶっちゃけて言えば結構好みではありましたが。
しかし、神に誓ってやましいところは何もないですよ。
「可愛かったよね。若いしさ〜」
「あれは誤解です。丁重にお断りしましたよ」
「別にぃ。俺はいいけどぉ」
なんですか、その喋り方は。ジョットは大きな瞳で含みのある視線をこちらに向けてきます。
「知らないよ?千種君に怒られても」
はい…?
まあ、新人のスタッフに手を出すという行為はもちろん誉められた事ではありませんが。
マネージャーはそういった事には干渉してきませんよ。
現に前の前、お付き合いしていたのはうちの事務所付のヘアメイクの女性でしたし。
「千種は心配いりませんよ。プライベートに口出しする程不出来なマネージャーには育てていませんから」
「ふーん?」
いいけどぉ、とやはり語尾を伸ばして返事しながらオートロックのキイを差し込む。
どういう事でしょう?
…はっ!まさか…!
この人は、千種に興味を持ち始めたのでは!?
あの子は駄目ですよ!確かに、背は高いですし顔も悪くないですし、何より気の利く良い子ですけれども!
でも誰であろうと浮気は許しませんから!
「ちょ…あの、ジョット!?」
呼び止めると、ちらりと振り返った彼は何だか呆れたような溜め息で。
「鈍感」
と言って、エレベータホールへと消えて行きました。
…何だっていうんですか…??
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