冷静と情熱のあいだ

朝目覚めたら既に隣にジョットはいませんでした。
出勤時間(と言うんですかね?)がまちまちな僕らは、お互いに朝は自由に出かけるのが当然なのですが。
おかしいですね。今日はたまたま同じくらいに仕事なので、たしか一緒に出ようと話していたはずなのに。
僕が寝坊したわけではないので、ジョットは時間よりも早く起きて出かけた事になります。
朝に弱いあのジョットが、珍しい。

首をひねりながら、とりあえず顔を洗う為に洗面所へ。
洗面台を見て、納得しました。

「おやおや」 そういうことですか。


ご存じの通り僕はA型です。
だからというわけではないのですが、僕はもう絶対使わないような要らない物、
つまらないものも捨てられずにいつまでも取っておいてしまうのです。
もしかしたら必要になるかもしれないじゃないですか。
反対に刹那主義な傾向のあるジョットは何でもぽんぽん捨ててしまいます。
彼は僕の捨てられない性格が理解できないらしく、
たまに僕が引き出しに溜めているハガキやダイレクトメールの類いの始末を提案してくるのです。
普段は掃除なんて絶対にしないのにね。
ただ、いざジョットが捨ててしまうと、それから後やっぱり必要だったなど思い返す事もないのですから、
要らない物だったのでしょうね。
性格的に捨てられないだけです。
もちろん人からもらった手紙なんてものも捨てられません。

昔、ジョットと出会う前にお付き合いをしていた女性から手紙を頂いた事がありました。
いわゆる恋文というやつです。
今風の女優さんがそんな奥ゆかしいものを、と気持ちが動かされた結果付き合う事になったのですが。
しかし、それも彼女の恋愛テクの一つだったらしく、最終的には僕がフラれて終わったわけです。
思い入れなんて微塵もありませんでしたが、慣習でそのラブレターも引き出しの片隅に仕舞ってあったのです、が。


それが鏡に貼り付けてありました。
そして洗面台に転がる、彼女が置き忘れていったCOCOCHANELの口紅。

手紙には磨り減った紅いルージュで上からバツがつけられ、さらに鏡には、大きく書かれた真っ赤な『TRASH!』の文字。

「…随分可愛い真似をしてくれますね」

これは自惚れても良いのですよね?
はりつけにされた手紙を剥がして真っ二つに破る。

これで彼が嫉妬してくれたのですから、自分の物持ちの良さを褒めたたえてあげたいところですね。

それから、昔の恋人にも心からの感謝を!

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