溺れる魚

「…つっ……!」

指先に走る鋭い痛み。
視線をやると指からは血の筋が細く流れていました。
薄闇にくっきりと浮かぶ赤い色。
傷の原因はジョット。これはジョットに噛まれたのです。

情事の最中、彼はイく瞬間に自分の指を噛むのが癖で。
止めさせる代わりに彼の手を押し退けて、僕は自らの指を彼の口の中にねじ込んだ、 その結果がこれ。

「血、出ちゃってるね」

ごめん、とジョットは僕の指先に舌を這わせて血を舐め取ってくれる。
いえ、後で貴方が舐めてくれるのなら、身体の何処を噛まれても一向に構いませんが。

…冗談ですよ。お気になさらず。貴方が傷つくよりはずっと良い。

顔を上げさせて恍惚の名残の如く濡れるジョットの唇に口付ける。
反射的に閉じられる彼の瞳。唇を重ねている僕の頬に触れんばかりに長い彼の黄金色の睫毛。
絡め合う舌は血の味。錆びた鉄の味。

彼が傷つくよりは僕が傷ついた方が良い…それは本心です。
ずっと大切に、ガラスケースに入れて保管しておきたい程綺麗なジョット。
だけど、たまにふと思うのです。 綺麗な彼に僕自身の手で、目茶苦茶に傷を付けてしまいたいと。
彼が綺麗であればあるほど、くっきりと傷跡を刻んでみたい。
取り返しがつかない傷を負わせた後、僕は何を感じるのでしょうか?
この上ない愉悦を抱いて、今より一層彼を愛するのでしょうか?

けれど、それは禁忌。覗くだけで決して堕ちてはいけない奈落の底。禁断の淵はいつだって甘美なのです。

暗い妄想を脳内に巡らせながら口付けを交わす僕の手を、
ジョットは彼の冷たい指先で愛撫した後、そっと傷口に触れてきました。
触れられた痛みに、無意識に跳ねる僕の指。
その反応にふふっと笑うジョット。


「綺麗なものって、たまに傷付けたくなるよね」


…貴方は僕の心が読めるのですか? 今、僕も同じ事を考えていましたよ。
どうして傷を付けたいのですか?
その理由まで同じだったら良いのに。

僕に身体を擦り寄せて、

「ね、もう一回シよ?」

と微笑う彼を抱き締める。
わかっていますよ。これはただの偶然で、心なんて読めるわけがないでしょう。
僕達はお互いの身体をまさぐりながら再びベッドに沈み込む。

こうして身体を重ねる以上に、分かり合える手段が他に見つからないのです。

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