頭が痛い…。
これは、明らかに飲み過ぎですね。
昨日の夜。
落ち着いた雰囲気の店内。カウンター席の一番奥が彼の指定席。
件の美人、雲雀恭弥は上機嫌で、甘ったるいショートカクテルで唇を湿らせてそこに座っていました。
僕が声を掛けると振り返って濡れた唇で僕の名を呼ぶ…。
壮絶に色っぽいのですが、彼の中身を知っている僕は騙されませんよ。
「例の雑誌、見ましたよ」
「良かったでしょ?」
「素晴らしく。女性誌に載せておくのはもったいないくらいですね」
「あれ?褒めてくれるなんて、珍しい」
「いえ、貶してますよ。あれが男性誌に載っていたら、何人の男が夜の伽に使うでしょうね?」
「そう思うなら六道も僕の写真でヌいていいよ」
ご冗談を。
そんな事をしなくたって僕にはれっきとした恋人がいますから。
あ!そういえば!
「思い出しました!ジョットに余計な事を吹き込むのはやめて下さい!」
「僕は事実しか伝えてないよ」
「嘘をつきなさい!君の事だから、大幅に脚色を加えているに決まっています!」
第一、事実だとしたって知られたくない事はたくさんあるのですよ!
「心配しなくてもそんな大した話はしてないよ」
「た、例えば…?」
何を聞いたか、いくら問い質してもジョットは笑うばかりで教えてくれないのですよ…。
例えば、と顎に指を当てて首を傾げる雲雀君はとても可愛いですが、僕は騙されませんってば。
「例えば君がフラれた時の話とか」
すみませんねえ。どうせ僕は何故かよくフられますよ。
「君の過去の女性遍歴とか」
それは、まあ…。女癖の悪さに関してはジョットの方が数段上ですからね。
「あと、最初の頃の君の仕事の失敗談とかね」
それはよくある事ですよ。僕にだってまだ慣れていない時期というものがありましたから。
「あ、そうそう。一番ウケたのは君が彼に惚れてからやった、変態じみた画策だね」
な…っ! た、確かに、多少ストーカーまがいの行為をした記憶はありますが…。
それをよりによって本人に言わなくてもいいじゃないですか!!
その前に雲雀君!何故君がその事を知っているのですか!?
撃沈した僕に雲雀君は、彼の愛人仕込みのサディスティックな笑みを浮かべる。
「僕だってちゃんと気を遣って、僕達の馴れ初めの話はやめておいたんだから」
「と言うと…同じ雑誌のモデルをやっていた頃の…?」
「違うよ。わかってるくせに。撮影の空き時間に使われてない衣装部屋に僕を引きずり込んで無理矢理犯…」
「わあぁぁっー!!」
そういえば、そんな事もありましたね…。
「忘れたの?嫌だね、加害者はすぐ都合の悪い事は忘れちゃうんだから」
ぐうの音も出ずにテーブルに沈む僕に、降って来たのは身体の奥をくすぐるような雲雀君の甘い笑い声。
「だから話してないって」
「あ、ありがとうございます…」
「どう致しまして。あ、もちろん今日は六道の奢りね」
…奢らせて頂きますとも!
言い訳をさせて下さい…。
あの日、僕に弱音など一切吐かない雲雀君が僕の前で涙を見せたのです。
ディーノが好きだ、と呟きながら。
それがあまりに哀れであまりに綺麗で、そして無性に腹立たしかったのです。
だから、僕は…。
その後、僕と数回関係を持った雲雀君は、それからしばらく連絡が取れなくなったと思ったら次に会った時は社長の愛人に収まっていました。
その美貌にふさわしい強さを身に着けた彼は、きっともう二度と僕の前で泣く事はないでしょう。
もう一軒付き合ってよ、という雲雀君と結局朝まで飲んでしまいました。
頭が痛い…。
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