氷の微笑

待ち合わせはいつものバーで。
事前のアポなしで人を呼び出す傍若無人な人間を、僕はあいにく数える程しか知りません。
ああ、一人も知らないと言えない所が悲しいですね…。
今日連絡を寄越したのは、黒髪ベリーショートがよく似合う美人。
名前は、言わずと知れた、雲雀恭弥。
僕がこの業界に入った頃から知り合いのモデル仲間です。
テレビ露出が少ないにも関わらず世間に幅広く知られており、モデルとしては異例の人気を誇る人物です。

そういえば、つい最近の彼の仕事を見ましたよ。
大手の某女性ファッション雑誌の巻頭グラビアで、セミヌードを披露した事で話題になった例のアレです。

キャッチフレーズは、

『抱かれたい、男』


そのまんまじゃないかと思いましたが、いや、僕の読みが甘かったですね。
撮影はどこかの高級マンションの一室という設定だったようです。
バスルームでバスローブを腰の位置まで脱いで振り返る背中からのショットや、裸でベッドに横になって笑うバストショットまでは予測済みです。
しかしシーツにくるまる彼の足だけのアップや枕をかき抱いて爪を立てる腕だけの写真は少々やり過ぎではないですかね?
直接的な写真ではないからこそ卑猥さが増すというか…。
鏡に映った裸の後ろ姿の虚像は、臀部が見えそうで見えない所にやきもきさせられるなんて頭の悪い感想を述べている場合じゃありませんよそこのコメンテーター!
更に、出窓に腰掛けて気怠げにコーヒーをすする彼の肩から腕にかけてのラインや、マニキュアや香水の壜がたくさん散らばるフローリングの床に寝そべってルージュのスティックに口付けるその冷笑に至っては、彼の妖艶たる魅力が嫌というほど発揮されていますよ…。

ああ、そうですか。
それであのキャッチフレーズですか。
なるほど、両方の意味に取れるようになっていたのですね。

…年齢制限をした方が良かったのでは…?
局部を写さなければ問題ないというものではありませんよ…?

しかし、そのグラビアのおかげで雑誌は創刊以来最高の売り上げ部数となっているそうです。
たしかに、華奢な割に意外と鍛えられた無駄のないしなやかな肢体は、エロティックな魅力を差し引いても十分魅力的な美しさですからね。

ただ、彼は性格にちょっと難ありというか何というか…。
とにかく僕は振り回されてばかりですよ、ふう…。

では、その美人と今から飲んできます。
どうせオールになるでしょうから、その話はまた明日にでも…。

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