ジョットはあの顔で実は物凄く酒が強いのです。
多少は酔うようですが、暴れたり泣き出したりといった突拍子もない言動は取らないし、記憶も飛ばさなければもちろん吐いたりもした事がないそうです。
そう、恐ろしい事にどれだけ飲んでも、です。
さらに質が悪いのは、彼は飲み始めて割合早いうちに頬に赤みが差し、瞳は涙の膜でうっすらと潤むのです。
まるで泥酔する一歩手前のように。
何も知らない愚か者どもはそれを見て、いける、と思うようですね。その状態が永劫続くだなんて予想だにしないでしょう。
結果酔い潰すつもりが、自分の方が先に潰れジョットは我関せずと先に帰り、残るのは莫大な酒代のみという大変愉快な結果になるのです。
そういう意味ではまったく心配はないのですが、しかしほろ酔いの可愛い顔を他の男に見られるのは面白くないですね。
というのも、今日の彼が飲んで帰ってきたからです。
…一昨日の夜から仕事でほとんど寝ていないはずなのに、仕事終わりに酒まで飲める彼のタフさには毎度の事ながら感心しますよ…。
「劇団の方と飲んできたのですか?」
「ううん、舞台とは関係ない人だよ」
帰るなり風呂場に直行した彼と、彼と話したくてバスルームの扉の前に立つ僕。薄い擦りガラスを挟んでエコーの効いた言葉が飛び交う。
「関係ない人…?まさか、女性ですか…?」
「あはは、浮気なんてしてないよ。男だから心配しなくても大丈夫」
いえ、貴方の場合は男との方が心配なのですが。 この人はそういった危機感が薄いのが困り者です。
男としては当然なのかもしれないのですが、彼の場合は例外なんだからもっと注意して頂かなくては。
とはいえ、彼は見掛けによらず荒事に強いし、案外女好きでもあるので仕方ないのかもしれません。
かつて彼の恋人だった、華奢で作り物のように綺麗な女性たち。
しばらく黙ったままでいると、急にジョットがふふ、と笑う声がしました。
シャワー音に紛れて柔らかくくすぐるようなその響き。
「ジョット?」
「聞いちゃった」
「…何をです?」
「骸の昔の話とか、その他色々?」
「は…?誰にですか?」
「恭弥君に。今日彼と飲んでたんだよねー」
「な…っ!」
雲雀、恭弥…!? 一体どんなある事ない事吹き込まれたんですか!?
いや、ある事だけでも色々と不味いのですよ!
いやいや、それ以前に、あの男はかなり危険なんですよ!?二人きりになるなんてとんでもない!!
詰め寄ろうと思わずバスルームの扉を開けたところ、
「あ、覗きげんきーん」
とシャワーの噴射攻撃を浴びせられました。それを見てげらげら笑う彼。酔ってますね。
酔ったついでに今日聞いた事はすべて忘れてくれればいいのですが、そううまくはいかないんでしょうね…。
そして、水浸しになった床は誰が拭くんでしょうね?ああ、僕ですよね、ハイ。
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