今日の帰りに乗ったタクシーは、珍しく運転手が若い男でした。
若いと言っても30前後ですが、タクシードライバーは壮年が多いので。
彼は僕がテレビに出る人種だと気付いて、愛想良く話しかけてきました。
「芸能人ってテレビで見るより本物の方がずっと綺麗なんですねー!たまにタレントの方乗せるんですけどね、みんなそうだなあ」
それはどうも。テレビは少し太って見えますからね。
「そういえば、だいぶ前に乗せた、あの人なんて特にすごかったですよ。ほら、よく映画なんかに出てる…」
と、彼はあろうことかジョットの名前を出してきたのです。
同じタクシーを利用するという偶然に驚く僕に、なおも明るく話を続ける運転手。
「知り合いですか?そりゃ同じ世界の人ですもんね。いやあ、テレビで見るよりだいぶ細くて、顔なんてこーんな小さかったですよ!」
彼は人差し指と親指で丸を作ってみせる。
確かに顔は小さいですが、そこまで小さくはないでしょう。
「芸能人って生活が不規則だって聞くのに、肌も綺麗でね。自分と同じ人間だとは到底思えませんねぇ」
生活は酷いものですよ。睡眠時間はまちまちだし、酒は浴びる程飲むし、物凄い偏食家だし。
それでも触るとしっとりと吸い付くような木目細かな肌をキープできているのは21世紀に起きた奇跡の一つですね。
「世の女性が騒ぐのも無理ないですよね。そういえばあの人、この前週刊誌で何とかってモデルと噂になっていたけど、真相はどうなんですかね?」
まったくのデマですね。
その記事は僕も見ましたが、書かれていた目撃証言の夜、彼は一晩中僕のベッドで子猫のように可愛い鳴き声を披露してくれていたのですから。
「やっぱり美男美女がお似合いですね。私が女性にモテなくても仕方がない。あはは」
そんなことないですよ。
確かに彼は面食いですが、必ずしも美女を選ぶとは限りません。
現に…。
「ああ、すいません。他の方の話ばかりして。六道さんももちろんテレビよりずっとカッコイイですよ!」
クフフ。
ありがとうございます。
ですが、気を遣わなくてもいいですよ。
僕は自分より、彼を誉められる方が嬉しいので。
やがて、タクシーはマンションの前に到着。
応援してますから!と手を振って陽気なタクシードライバーは去っていきました。
…もちろん、今までの会話の返答はあくまで僕の心の中で思っただけで、実際にはこんな事言ってませんよ?
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