夢見るように微笑んで

夜遅くにメールの着信音が鳴りました。
差出人はジョット。
メール内容は、

『今日、一緒に帰ろう』


帰るも何も、僕は既に家にいるのですが…。

仕方ない。ヒーターとテレビの電源を切って、厚手のコートを引っ掛け、いざ寒空の下へ。

やってきたのは深夜1時まで営業している駅前のとあるコーヒーショップ。
安い値段で気軽に入れるデリカフェは、実はジョットのお気に入りだったりします。
こんなチープな店を何故…と最初は思いましたが、ドリンクを好みでカスタマイズできるのが意外と楽しくて、今では僕もけっこう利用しています。
ポイントカードも作りました!

さて、今日のドリンクチョイスは、ホットチョコラテにエスプレッソショットを追加。
こうすると、カフェモカのようでモカよりもチョコレートの割合が多いドリンクが作れるのです。
更にコンディメントバーでセルフのココアパウダーを振り掛け、チョコづくしに。


窓際の席で、だんだん人通りの少なくなっていく駅前の道を眺めていると、お待たせーと言いながらジョットがやってきました。

「じゃーん!今日のカスタマイズはアイスのアメリカンにストロベリーアイスクリームを乗せてみましたー!」

…この寒い夜に、よりによってアイスドリンクにアイスのトッピングですか…!

「コーヒーに苺のアイスって…美味しいんですか?」
「うーん、俺も今日が初挑戦」


その初挑戦は暖かいうちにすませておけなかったんですかね。
あ、意外にイケる、と目を輝かせるジョット。
不味かったらきっと僕のチョコスペシャル(今名付けました)と交換する事になっていたんでしょうね…。

平日の深夜、ほぼ客入りのない店内で彼は楽しそうに笑う。


けれど、僕は知っています。
普段タクシーかスタッフの車で帰る彼が何故、駅前のコーヒーショップをわざわざ指定してきたのか。
そして「迎えに来て」の一言が言えなかった彼の不器用さを。


何かありましたか?


聞きたいけれど、聞いてはいけない。
お互いの仕事に関しては不干渉が大原則です。
それは約束ではなく、それぞれが自分の仕事に信念を持っている証拠。
だから尋ねる代わりに僕は、月の光よりも明るい街灯に照らされた二人きりの帰り道、彼の冷えきった手をそっと握って温めるのです。


なんか寒くなってきた、と予想済みの結果を口にする彼の名前を、僕は呼ぶ。


「それ、僕にも一口ください」
「ん、いいよ。はい、」
あーん、とスプーンを差し出すジョットの淡い微笑み。
チョコばかり飲んでいた舌にストロベリーとエスプレッソの共演はやけに酸っぱく感じました。

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