sugary sweet
みつまめが食べたい、と言った。
昼飯を食べたばかりなのに、とは彼は言わない。絶対に思っているだろうけど、でも言わない。
そういう僕のちょっとした我が儘を聞くのが実は好きなのだと知っているから、わざと彼が一人だったら確実に用のないだろう甘味処に彼を誘う。
いや、食べたいのも事実なんだけど。
暖簾をくぐるといらっしゃいませ、という高い女性の声が僕らを出迎えた。
明るい店内は女性客ばかりだ。ご婦人方に人気の甘味処に男二人で入る客なんて珍しい。
普通なら居心地悪く感じるんだろうけど、幸いにも僕はそういった事は気にならない性分だ。
四乃森さんに至ってはもっと気にしない。彼は目立つ事も、人に見られる事にも普段から慣れきってしまっている。
隠密のくせに、とちょっと釈然としない上目遣いで彼を睨んだのは、注文を取りに来た店員の若いお嬢さんが少し頬を赤らめて四乃森さんを見つめているからだ。
たしかにその人は美人ですよ。
でも僕のものなんですから、そんなに見つめないで下さい。
……なんて言えるはずもなく。
「すみません、みつまめ一つ」
と、いつもの笑顔で注文した。つられて笑いながら諒承の返事をするお嬢さんはとても愛らしい。
わかってるってば。くだらない嫉妬だって。
現に四乃森さんは彼女の視線に気付いていない。僕の心の動きになんてもっと気付いていない。
そもそも僕のものなんかじゃないんだから、仕方ないか。
あーあ、報われないね。貴女も僕も。
注文の品が運ばれてくると、下がり気味だった僕の機嫌もぐんと急上昇する。
匙を手に取って口に入れた瞬間笑みが零れる。
たかがみつまめ。だけど、簡単な食べ物だけに味の善し悪しがきっぱりと表れる。
絶妙な甘さと、ふるふる震えるところてんの食感も最高。
うん、当たりだ。
ふと向かいの席の、番茶をすすっているだけの四乃森さんが口許を手の甲でおさえて横を向いた。
笑っているらしい。
「……なんですか?」
「いや、美味そうに食うな、と思って」
「美味しいですよ?」
それは良かった、と彼は目を細めて微笑む。
仕方ないじゃないか。
目の前には甘くて美味しいみつまめ。
それから、もっと甘い四乃森さんの笑顔。
これで幸せな気分にならないなんて人間じゃない。
食べ続ける僕を彼は微笑んだまま見つめる。
きっと可愛い奴だとでも思ってるんだろうな。
でもね、四乃森さん。
人が美味しそうに食べてるのを見ているだけで笑顔になっちゃう貴方の方こそ、可愛いって僕は思ってるんですよ?
知らないでしょう?
貴方のそういうトコロ、大好きですよ。四乃森さん。