メイドのお仕事2
2.疲れを癒す
今日の俺はかなり疲れていた。きっとそのせいだ。
俺の帰宅を出迎えてから、ベルはいつもの通りコーヒーを淹れるために人間サイズに変身していそいそとキッチンへ向かう。それを遮って俺はベルの手首を掴んで引き倒した。身長に対してウェイトが極端に軽すぎるベルの身体は簡単に吹っ飛んでソファの上に着地する。
自分に降りかかった事態をベルが認識するより素早く、ベルの上に乗り上げてマウントポジションを取った。
ベルは少しずれた眼鏡の奥で瞳を大きく見開いて呆然と言った感じで何度も瞬きを繰り返している。
「な、何なんだ?これは?」
「優秀なメイドのベルちゃんにはわかるだろ?しっかりご奉仕しろよ」
「は……!?嫌だ!断る!」
「残念だな、拒否権なんかねえよ。ご主人様に尽くすのがお前の仕事だろーが」
「こんなのは俺の仕事じゃない!」
じたばたと下でもがくが、そんなもん俺にとっては抵抗の内にも入らない。両手首を頭の上でひとまとめにして押さえつけると、ベルはぴたりと暴れるのをやめた。かわりに信じられないものを見る目で俺を見上げてくる。
「……本気、か?」
俺はそれに意地悪な笑いで応えてやる。
「もちろんだ。いいから、おとなしく犯らせろよ」
「い……やだっ!」
再びベルがもがき始めるが、それは膝と片手だけで易々と押さえて、もう片方の手を背中に回してエプロンの結び目を解く。ウエストを縛っていたリボンが解かれると、ベルはびくっと身体を竦ませた。頬を赤くして涙のにじんだ瞳で俺を睨みつけてくる。初々しい反応が可愛いったらない。
そういえば、ベルナルドの奴と初めてそういう関係を持った時、アイツは決してこんな可愛い反応は見せなかった。というより、むしろ、男とヤるのに妙に手慣れている感じがした。しかもわざわざそれを見せつけるような態度にムカついて、俺はつい酷い扱いをしてしまった。
今思えばそれはまさしくわざとだったのだろう、バツの悪そうな顔をする俺にベルナルドは勝ち誇ったような笑みで、「痛いくらい激しい方が悦いんだ」と宣言した。正直ちょっとついていけないと思ったがその笑顔があんまり奇麗だったから、ほだされて今に至る。
ベルが何か抗議してわーわー喚いているが、少しくらい嫌がられる方が逆に燃えるってものだ。俺は気にも留めずに背中をまさぐる。
メイド服の作りなんざ知らないが、こういったワンピースはだいたい後ろにファスナーがついているものじゃないかと思うのだが、どういうわけか見つからない。
俺の手が背中を撫でる度にベルの身体が小さく跳ねる。背中が弱い所まで本物とそっくりってわけか。
結局ファスナーを探すのは早々に諦めた。
せっかくメイド服なのだから、脱がせるよりこのまました方が良いに決まっていると思い直し、今度は野暮ったいロングスカートに手を伸ばす。そろそろ本気で泣き出しそうなベルの目元と頬に、順番に優しく口付けを落とす。それからベルの耳へ、食むように唇を寄せるのと同時にスカートをたくし上げてベルの素足を撫でる。
すると、さっきまでと違う、甘い声でベルが鳴いた。
「……ぁ……や、も、ダメ……っ!」
ぽふん。
一瞬にして俺の視界からベルが消えた。
辺りをさっと見渡すとソファの上に、肩で息をしながら転がっている小さな生き物が。
「こ……の、卑怯だぞ!小さくなって逃げるだと!」
「うるさい!この色情魔!メイドに手を出すなんて最低だ!」
「知るか!さっさと大きくなれ!続きをやらせろ!」
「絶っっっ対嫌だ!変態!」
俺が首根っこを捉まえて怒鳴ると、ベルは足をぶらぶらさせた状態で怒鳴り返してくる。
恥じらいながら嫌がる仕草があんなに可愛かったのに、小さくなった途端これだ。きーきー文句を言うベルを嫌がらせで振り回してやった。膨らんだスカートがふわりと揺れる。
それで、一瞬だが、俺は見てしまった。
「おい、ちょっと待て」
「わっ!スカートをめくるな!セクハラだ!!」
「お前これ、下に履いてるの、かぼちゃパンツ……?」
白い、裾にゴムの入っている幅の広いそれは幼女が履いていそうなまさしくかぼちゃパンツだった。こいつのこのずんぐりまるっとしたフォルムはこれのせいだったのか。
「まさかとは思うが、お前、人間サイズになった時、これは……」
「もちろん履いている。当たり前だろう、このまま大きくなるんだから」
「ふ……っざけんな!脱げ!今すぐ脱げ!」
「は!?どうしてだ!?俺が何を履いていようと別にいいじゃないか!」
「良くない!スカートの下がそんな色気のカケラもないもんじゃやる気も失せるだろうが!大問題だ!」
「じゃあ見なければいいだろう!」
この野郎。ストッキングにガーターベルトとまでは言わないがせめて、もっとこう、あるだろうが!!
だが顔を真っ赤にして必死にスカートを両手でおさえている小さな生き物を目の前に、さすがにちょっと大人げなかったかと思い、反省する。今日の俺は少しばかり疲れているんだ。だからちょっと気の迷いを起こしてしまっただけで、本来ならいくら可愛くてもこんな人外の生き物に手を出さなきゃならんほど不自由はしていない。
俺は仕切り直すように溜息を吐いた。
「ベル、もう一度大きいサイズになれ」
「嫌だ」
「さっきのは悪い冗談だ。心配しなくてももう襲ったりしねえよ」
「…………」
「あのなあ、たまにはご主人様の言う事を素直に聞いたらどうだ?」
そう言われて、ベルはむっとした顔をする。自称優秀なメイドのベルにしてみれば主人の命令に逆らってばかりの今日の自分に思うところがあったのだろう。少し考えて、ぽん、と等身大人間サイズに変身した。
「座れ」
これにもベルは素直に従った。だが俺との距離をできるだけ取るようにソファの端っこの方に恐る恐る腰掛ける。
おお、警戒してる警戒してる。もう襲わないって言っているのに、信用ゼロかよ。だが、まあいい。そこはむしろベストポジションだ。
端に座るベルまで揺れる勢いでソファに腰を下ろした俺は、そのままソファに横たわる。ソファの端から足をはみ出させて、頭はベルの膝に乗せて。
わかっていたが、やっぱり少し硬いな、この枕は。
「……何の真似だ?」
「疲れた。少し寝る」
そう言うと俺を見下ろすベルの顔があからさまにほっとした表情になる。そんなに脅えられていたのか。もしくはたかが膝枕とはいえ自分が役に立てるような仕事があって安心したのか。
しかし、条件反射のように俺の髪を優しく撫でる手付き、それはちょっといただけない。わざとやっているのか。もし無意識だったら凶悪だな。さすがはベルナルドにそっくりなだけある。
「お前、あとどのくらいその姿でいられる?」
「だいたい30分くらいだ」
「そうか、じゃあ25分経ったら起こせよ。お前を潰したら困るからな」
「わかった。……25分か。余った5分はどうするんだ」
「そうだな、キスでもするか」
腕を伸ばしてベルの目元を指で辿る。ああ、本当に眠くなってきた。
ベルは俺を見つめて、くすぐったそうに微笑んだ。
「はい、ご主人様」
柔らかい笑顔を浮かべて、ベルが今日一番良い返事をする。
その笑顔を目蓋の裏に焼きつけて、俺は目を閉じた。
ってか、キスは良いのかよ。お前のボーダーラインがさっぱりわかんねえよ。