40.寄する波(ルキベル)
海が見たい、と言い出したのはベルナルドだった。
「いっつも見てるだろ。デイバンは港町だぜ?」
「それはそうだが、そうじゃなくて、もっとロマンチックなやつがいい」
そんなわがままのせいで、ちょっとしたドライブは思いがけない遠出になった。
その浜辺に辿り着いた時には既に真夜中近くになっていた。
当然だが誰もいない。
砂浜に停めた車から降りると、ベルナルドは無言で波打ち際ぎりぎりまで歩いてゆく。ルキーノも黙ってその後をついていった。
冬の海は夜よりも暗く、地上の始まりから生じた全ての闇をたゆたわせて、まるでそれ自体が一つの生き物のようにうごめいていた。
不規則に浜に寄せては引いていく波の端の白さだけが儚くて、それが一層不気味だった。これをベルナルドはロマンチックだと思うのだろうか。
「世界が滅びた後みたいだな」
隣で海を見つめるベルナルドが、叙情的な横顔で言う。
「お前にはもう、俺しかいないよ」
巨大な海のうねりが
創り出す潮騒に紛れる事のない、やけに澄んだ声だった。
気にしなければ聞こえなかったのに、意識したとたん、ひっきりなしに打ちつける波の音が大きくなった。
吹きつける海風は刺すように冷たい。
ベルナルドの方へ一歩踏み出すと、靴の裏で貝殻が割れる感触がした。
確かに、崩壊した世界の果てにいるようだ。
「悪くないな、それ」
ベルナルドがこちらを振り向く。
全てが滅びた後、空と大地と海だけが残る世界に佇む男の隣で、ルキーノは笑う。
「つまり、」
お前にも、俺しかいないって事だろ?
そう言おうとした瞬間。
プァー、と間抜けな汽笛を上げて一隻の汽船が水平線上を横切っていった。
しばらくお互い、顔を見合せて、それから同時に吹き出した。馬鹿みたいだなと言いながらおかしそうに肩を揺らすベルナルドの背後で、世界はまだ存在し続けている。
二人だけになんて、どうやってもなれそうにない。