36.遣る瀬無い夜(ルキベル)
「もし、俺に子供がいたら、」
子供の相手くらいもう少しうまくできていたかな、と続けようとして、ベルナルドは途中ではっと口をつぐんだ。
なんて考えなしの発言だ。
発端は今日の昼間、長老会の一人が孫を連れてきていた事にある。ベルナルドは幼い子供の扱いにまったく慣れておらず困り果てていたところへ、ルキーノがかわりに相手をしてくれたのだった。
あまり子供好きにも見えないルキーノの、意外な一面に驚きかけたが、彼の過去を思い出して少し納得した。もちろん、口に出してはとても言えないとその時はきちんと飲み込めたのだが。
ベルナルドが表面上は失言だという顔もせずに静かに口を閉ざしたので、また後ろ向きな将来でも考えて暗くなっているんだろうと予測したルキーノはわざと咎める口調で問う。
「まさか、どこぞの女でも孕ませたんじゃないだろうな?」
「そんな不手際をこの俺がするとでも?」
「じゃあなんだ?お前が産むのか?」
「お前な…………いや、まあそんなところだ」
「外見も中身も俺に似るといいがな」
「どうしてお前の子だと決めつけるんだ」
「俺の子だろ?」
ふふん、とルキーノは得意げに笑って、くだらない「もしも」の話を続ける。
「絶対に男の子がいい。休日には一緒に釣りやセーリングができるからな」
ルキーノはそう言ったが、きっと女の子だと思い出してしまうからだろう、とベルナルドは思った。
そしてベルナルドが勝手にルキーノの心情をそう推測している事が知られたら、ルキーノはきっと怒る。他愛ない例え話ですら目隠しをしたままの綱渡りのような頼りないお互いの関係を、ベルナルドは自嘲を込めて苦笑する。
「せめて瞳の色くらい、俺に似ていればいいな」
「……来いよ、ベルナルド。妊娠させてやるから」
しかし、大きな手が引き寄せたのは決して子供なんて宿すことのない男の身体だ。
その事を嘆くべきか喜ぶべきかすら判断できなくて、わからない事がただ哀しい、と思いながらベルナルドは広い背中に軽く爪を立てた。