35.もう少しだけ(ジャンとルキベル)
閉め忘れたカーテンの隙間からまっさらな太陽の光がさんさんと差し込む朝。
この時間の一番の幸せはといえば、何と言っても二度寝だ。
目覚ましを止めてから、もう起きなきゃ、と頭の隅で思いながらも夢と現実を行ったり来たり……たまに本気で寝入っちゃったりして。でもその睡魔に負ける瞬間がまた最高に気持ち良かったりする。この誘惑に勝てる奴なんてちょっといない、と思う。打ち勝つには修道院で暮らすシスターくらいのストイックさが必要だ。
完全に寝惚けた思考で言い訳しつつも、惰眠のぬくもりに満ちた毛布の中に頭の先まですっぽりと潜り込む俺を。
俺の身体を、毛布の上から揺さぶる手があった。
「も、ちょっと、あと5分……!」
世界でもっともチープかつポピュラーな言い回しの懇願もむなしく、冷酷な手によってマンマの胸の中よりも暖かな毛布は容赦なく剥ぎ取られる。言葉になっていない呻き声を上げて薄目を開くとそこには、寝起きでその笑顔を見ようもんならたちまち恋に落ちてしまいそうな男、ルキーノがいた
。
かろうじて惚れずにすんだのは、俺がレディではないのと、こちらを見下ろすルキーノが目も口もO字に開いて固まっていたからだ。
何をそんなに驚いているのか、と思ったら。
……ここ、俺の部屋じゃねえわ。
しかも俺の隣、ダブルベッドの左半分にはベルナルドが長い手足を縮め、くしゃくしゃになったシャツとスラックス姿で丸くなって眠っている。
昨日はたしか、久々に飲みに行って、俺もベルナルドもべろべろに酔って、二人してふらふらでベルナルドのこの部屋に転がり込んで、
「あー、そのまま寝ちまったんだ。あはは」
俺が笑い飛ばすと、ルキーノは心底呆れた様子で溜息を吐く。そういや、ルキーノが勝手に入ってこれたって事は、昨日の俺は部屋の鍵をかけ忘れたようだ。かけたような気もするんだけど、定かじゃない。ま、酔ってたしな。
「ベルナルドに用事?」
「ああ、約束があったんだが、いくら待っても現れないから探しに来てみれば」
「ごらんの在り様ってわけか」
朝一で
約束って、大きな商談か何かだろうか。わざわざ探しに来るくらいだから仕事の話には違いなさそうだ。
「ルキーノを袖にするなんて、ベルナルドもやるねー」
「まったくだ。俺とのデートをすっぽかしておいて、ジャンと浮気とはな」
からからと笑いながらもさりげなく、ルキーノに引っ剥がされた毛布を奪い返す。
「ご愁傷様~」
どこかの掃除屋みたいな間延びした言い方で言って、俺は再び毛布を被ってベッドへ倒れこんだ。それから毛布の中でベルナルドの背に抱きつく。
なんとなくルキーノの言った、浮気、ってのが気に入らなくて。
「……5分だけだぞ」
言いながら俺の頭を掻き回すルキーノの手が優しいのも、抱き付いたベルナルドの背中がかすかな笑いで震えたのも、寝惚けていたから気付かなかったって事にしよう。
もう少し、あと5分だけ。