34.めくるめく?(ルキベル、ジャンベル)
人影もまばらなダンスホール、足元にはまったく足に馴染んでいない、ルキーノが選んでくれたぴかぴかのドレスシューズ。
今日は役員会の何とかって奴の、いい歳した嫁さんの誕生パーティで、カポの俺はもちろん、幹部全員が出席していた。
会場のそこここでは花束みたいなドレス姿のレディ達がギラギラした目で殿方を物色している……ように見えるのは俺の先入観からか。いくら美人からのお誘いでも不用意に受けないように。相手によってはそこからトントン拍子に結婚まで話を持って行かれかねないぞ、と事前に散々脅しを掛けられたせいだ。
そういうわけで、レディ達の熱い視線にも気付かないふりを続けてきた。もし声を掛けられたら何と言って断ろうか、と考えていた所に。
ホールの向こうの壁際にぽつんと立っているベルナルドを発見した。
長い髪をビロードのリボンで一つにまとめたベルナルドは、シックな色合いの夜会服のせいか余計背が高く見える。裾の広がった細身のシルエットが知的なベルナルドの魅力を際立たせ
ていた。
壁の花、って比喩があるけれど、凛とした立ち姿のベルナルドは一輪のイングリッシュローズみたいだった。
声を掛けづらい雰囲気を漂わせるベルナルドの方へと俺が駆け寄る前に、ふと視界を大きな影が遮った。
それは王侯貴族のような華やかさでタキシードを着こなすルキーノだった。ウチの部下は本当に良い男揃いだ。広い肩幅を持つ男は真っ直ぐにベルナルドの方へと歩みを進め、大きな仕草で跪いた。ベルナルドの前に、である。
ルキーノが何かを言って、ベルナルドが呆れた顔で言い返す。それはいつもの光景だったけど、次の瞬間、ベルナルドは苦笑と呼ぶには鮮やかすぎる笑顔を浮かべてルキーノの掌に自分の手を置いた。
そして、ダンスホールがざわめきに包まれる。
高らかに響く二つの革靴の音。女性とではあり得ない大きなリーチのステップで二人はダンスホールを軽やかに滑る。ルキーノの力強いエスコートでターンを繰り返す度に、ドレスの裾のかわりにベルナルドの束ねられた髪がふわりと
舞った。
190センチ越えの男二人は、あまり身長差のないルキーノとベルナルドは、お互い顔を寄せ合って、くるりと回っては微笑む。唇を触れ合わせてもおかしくない距離に何故だか俺の方がどきどきしてしまう。
スラックスに包まれた二組の長い足が絡み合うように交差するのと、ルキーノの大きな手がベルナルドの見た目通り細い腰をしっかりと支えているその手つきとが、何だかエロい。ああ、そうか、ダンスって元々エロいもんだもんな、と俺は一人納得する。
口を開けて呆然とする男性陣と、心なしか喜色を浮かべて頬を紅潮させているレディ達に見守られて、一曲のワルツが終了した。
弦楽器の音が止むと周囲のざわざわとした声が大きくなる。
ベルナルドの背中に手を添えたままのルキーノが、俺がレディだったら失神もののウィンクを寄越したのを合図に俺は二人の方へ駆け寄った。
振り返ったベルナルドの手をルキーノからもぎ取る。
「ベルナルドぉ、次は俺と、な」
「えっ!ジャン!?」
「じゃあ
俺はジュリオでも誘って来るか」
笑うルキーノを尻目に俺はベルナルドの長い指に自分の指を絡める。ベルナルドは満更でもなさそうな溜息の後で俺の腰に腕を回してきたので、俺はそれを払い落した。
「だーめ。お前が女役なの」
はいはい、と笑って俺の肩に手を掛けるベルナルドの腰を抱くと、本当に細くてどきっとする。動揺して最初の一歩でたたらを踏んでしまった。そんな俺にベルナルドが楽しそうに笑うから、また俺の心拍数は急上昇する。
よし!これでお見合い然としたダンスを単なる茶番に変えてしまおう作戦は大成功だ。
これだからCR-5幹部はおホモ達だって言われちゃうんだけどな。