31.待ち伏せ(ラグベル)
乗ってきたバンの荷台に『荷物』を積み込めば本日の仕事は8割方完了である。荷台のドアを閉めると、中で骨のひしゃげる乾いた音がした。少々詰め込みすぎたか、と一応反省はしたが、まあ構わない。どうせ文句も言えない相手だ。死人に口なし、とはまさにこういう事だろう。
仕事用の手袋を外してポケットにしまい、ラグトリフは路地の、車を停めているのとは反対側の出口へと向けて話しかける。
「お待たせしました。もう終わりましたよ」
路地の角から、苦笑を浮かべたベルナルドが姿を現した。
「いつから気付いていた?」
「えーと、僕がここに来た時から、ですね」
「参ったな。見つからないよう隠れていたつもりだったんだが」
「かくれんぼなら貴方の負けですねえ。ご自分が目立たないなんて嘘を、いったい誰から吹き込まれたんです?」
ベルナルドは軽く肩を竦めた。10月も終わりの肌寒い季節、ベルナルドが身にまとっているダークブラウンのロングコートは、去年彼が着ていた黒いコートよりもずっと似合っている。
何の用だ、と訊ねる素振りをいつまでも見せないラグトリフを早々に見限って、ベルナルドは自分で切り出した。
「大した用事じゃない。今日がお前の誕生日だと思い出して、プレゼントを」
「僕にですか?」
そう、と頷きながらベルナルドがすうっと目を細めるのを、半ば見惚れたようにラグトリフは眺めた。今日の仕事は珍しくベルナルドを通しての依頼ではなかったから妙だと思っていたが、さて、ベルナルドは車の中のうち、どれの死の証拠を御所望だろうか。
「ありがとうございます。貴方がくれるものなら何でも嬉しいですよ」
「張り合いのない事を言うなよ。ちゃんとお前が一番喜ぶものを用意してきたんだから」
「それは、どうも。気を遣ってもらっちゃいまして」
ラグトリフは素早く目を走らせ、自分の服に血が付いていない事を確かめると、ポケットの中から何かを出そうとしているベルナルドの腕を掴んで引き寄せた。細い身体はあっけないくらい簡単にラグトリフの腕の中に落ちてくる。腰に両腕を回してホールドすると、見かけ倒しの薄手のコートの下、ベルナルドの骨ばった身体のラインの感触がはっきりと手に伝わってきた。
「おい、ラグ」
「だって僕の一番欲しいものをくれるんでしょう?」
至近距離でにっこり笑う。
上目遣いで睨みつけ、呆れた溜息を零した後、二人の間の距離をゼロにしたのは、眼鏡をぶつけないよう首を傾げたベルナルドの方だった。
自分から仕掛けるキスでも、触れ合うだけの挨拶のような口付けで済ませられないのはこの人の性格か、性質か。差し出された舌の痺れるほどの甘さを堪能しつつ、ベルナルドの腰を抱いていた手を滑り下ろし、肉のついていない薄っぺらい尻を撫で回した。
「こんな路上では……困る」
唇を離したベルナルドはわずか10センチばかりの位置で咎めるように囁く。しかし震える睫毛の奥で、碧の瞳が笑いを含んで煌めくから、ラグトリフは好きですと言いたくなるのをあえて飲み込み、代わりに言った。
「では、続きは車の中で」
ベルナルドの手の中で無記名の小切手が、くしゃ、とかすかな音を立てて握り潰された。