28.ブラインド・タッチ(ルキベル)‏‏‏‏‏‏‏‏‏‏

ガチャン、と玄関のドアが閉まる重い音がしたのと、ルキーノが俺の肩を掴んで壁に押し付けたのとはほぼ同時だった。

いや、ドアの方が数秒遅かったかもしれない。だが、そんな些末事はルキーノから仕掛けられた噛みつくと言った方が正しい激しい口付けの前に、紙クズも同然とばかりに脳裏から追いやられた。角度を変える度に深くなるキスはしかし、すぐにルキーノが唇を離した事で中断される。邪魔だ、と舌打ちと共に吐き捨てたルキーノが俺の顔から強引に眼鏡を引き剥がした。その少々乱暴な手付きが余計に俺を興奮させる。余裕がないのは同じだとわからせるために、ルキーノの後頭部に手を回し、赤毛の間に指を差し入れて掻き回した。

身長が近いと立ったままキスをするには非常に便利だ。
女性相手ならば気付く事もなかっただろう新発見に苦笑する暇もなく、薄闇の中で俺達は互いの唇を奪い合い、身体をまさぐり合いながら数メートルの距離を移動し、フランス映画みたいにもつれ合ってベッドルームへとなだれ込んだ。



ルキーノに腰 を抱かれて背中からダイブしたベッドが抗議の悲鳴を上げる。すかさずベッドライトのスイッチをオンにしたのは理性ではなく本能から下った指令よる条件反射だ。目を痛めない程度の明かりに照らされたルキーノの影が上着を乱雑に脱ぎ捨て、仰向けに倒れている俺の上に被さってくる。





「待て」

その肩を俺は真っ直ぐに伸ばした両腕で押し返して降りてくる口付けを遮った。

「その前に、眼鏡を返せ」
「ああ?」

突然の中断に不愉快そうな声を上げたルキーノはおそらく顔も不満で歪めているのだろうが、文明の発達していない古代ならば失明レベルの視力しか持ち合わせない俺には判別不能である。
玄関に置いてきたらしいそれを取りに行こうと身体を起こしかけるも、ルキーノに押し戻されてベッドに逆戻りだ。

「なんで眼鏡がいるんだよ。必要ねえだろ」
「……眼鏡がないとお前の顔が良く見えない」
「見えないと違う男の名前を呼びそうか?」

本心からそう告げたのに真剣に取り合わないルキーノに 多少苛立って、ルキーノの首にぶら下がったままのネクタイを引き抜く。それでルキーノの目元を覆ってやった。頭の後ろでしっかりと固結びにする。

「俺が見えないんだから、お前も見るな」

これで妥協してやる、と俺は仕方なく言った。

目隠しをされたルキーノは溜息交じりに笑って、俺のスーツのボタンに手をかける。溜息をつくのはこっちだ、と言う隙もなく、片手で易々と上着のボタンを全て外され、ネクタイが解かれ、シャツのボタンもあっけなくルキーノの手によって陥落する。腰のラインを辿った手が迷いなくベルトを探り当てるに至って、俺は甘い声を上げそうになる喉を叱咤しつつルキーノを睨みつけた。

本当にこいつは見えていないのか?シルクのネクタイはとても透けそうにはない厚みの生地なのだが。しかし、「見えないからちゃんと良いトコ教えろよ?」「あ……やめ、そこは違……っ!」といったやりとりが目隠しプレイの醍醐味なのに、こんなにいつも通りに脱がされては台無しじゃないか。

そのくせ、降ってくるキスは 顎のあたりを掠めるだけでなかなか唇に触れてこないから、じれったくなった俺はルキーノの頬を両手で包んで正しい位置に導いてやる。

視力のせいではなく近すぎて焦点が合わなくなった視界に、諦めて俺は目を閉じた。