27.翻る、靴音が遠ざかる(ベル+ラグ)‏‏‏‏‏‏‏‏‏

俺が時折、通常の「掃除」以外の仕事を掃除屋にさせる事について、今までも非難が上がらなかったわけではない。
特に役員会からは、彼らは能動的にも受動的にも自分達とは関わるべくもない組織の末端の労働力を幹部の俺が手駒として良いように使っているのが面白くないのだろう、露骨な嫌味をぶつけられた事も一度や二度ではない。自らの目の届かない所で進行する事態があるという事実そのものを頭ごなしに嫌う、それが老人というものだ。無論、これは俺の偏見に過ぎない。だが真意はどうであれ、実害のない遠吠えなどそうやって心の内で嘲笑って聞き流すに限る。まともに取り合っていてはいくつ胃に穴が開く事やら。


だから、今回の二代目カポの遠征に際して、護衛役として掃除屋をつける事に役員会が難色を示すのは予想の範疇内だ。

だが、意外にももう一つ、異議を唱えた者がいた。
幹部最年少の男だ。
それも幹部会議でではなく、わざわざ俺の執務室まで一人でやってきたそいつは俺の机をバン、と叩いて怒鳴った。


「納得いかねえ!あの薄気味悪りぃ男を信用する根拠はなんだよ!?」
「実績だ。ジュリオ程ではないにせよ、あれの能力は十分に信用できる。俺が、そう判断した」

コンマ一秒の間隙もなく返答すると、勢いを削がれたのか、あるいは俺の切って捨てるような言い方に怒りで声も出ないのか、相手は一瞬言葉に詰まる。イヴァンが実は誰よりもジャンの身を心配している事はわかっているが、これは決定事項だ。俺は座ったまま冷静な目で正面の九つ年下の男の顔を見返した。

「んじゃあ、ナニか?てめえンとこの部下よりもアイツの方が頼りになるってか?本当にそれだけが理由か?本音を言えよ!」

俺の視線を受け止めたイヴァンは瞬時に俺が決定を覆す事はないと悟ったのだろう―――こういう点ではこいつの頭の回転速度は決して悪くない―――腹立ちまぎれに怒りの矛先を変えて再び怒鳴った。

やれやれ。どうして誰もかれも、俺が掃除屋を使うと聞くと、何か良からぬ事を企んでいると決めつけるのか。

本音、ねえ。

「イヴァン。ウチの奴らは優秀だし、無論信頼もしている。だけど護衛の任務には危険が伴うものだ。もちろん兵隊の命とカポの安全とじゃ比べるべくもないが、それでもできるなら俺はあいつらを失いたくない。だが、」

そこで言葉を切り、イヴァンの後ろ、開け放された扉の方へ一度視線を投げて、俺はまた続ける。


「あれの命なら別に惜しくはないからな」










「ええ、おっしゃる通りです」




入口には、ラグトリフが笑って立っていた。



「げ!おま……掃除屋!いつからいたんだよ……?」
「ちょっと前からですよ。報告書と請求書を出しに来たのですが、何やらお取り込み中のようでしたので」

ぎょっとのけ反るイヴァンを尻目に、ラグトリフはすたすたと部屋を横断して封筒を俺に向けて差し出す。
「ああ、待っていたよ。金はいつもの口座でいいな?」
「結構です。次の仕事のお給金も一緒に、ですか?」
「今回は前払いだ。頼んだぞ」

ラグトリフはにいぃ、と口を横に広げて、一礼した。

「承りました。地獄の沙汰も金次第、ですからねえ」


では、と踵を返してどこか楽しそうな足取りで立ち去るラグトリフを呆然と見送ったイヴァンは、その足音が遠くなってから、たった今渡された封筒の中身をチェックする俺に向かって、

「お前、サイテー……」

と、低い声で呟いた。


視線すら上げずに、そうでもないさ、と言って俺は笑う。

俺の本音なんて、アイツはとっくの昔に知っているのだから。