26.How do I know where the love is?(ルキベル+ラグ)‏‏‏‏‏‏‏‏‏

ベルナルドが指定してきた待ち合わせ場所、Cafe rapidの地下階段を豪奢な赤毛を揺らしながら降りたルキーノは、こちらへ手を振ってくる男を見るなり盛大に顔をしかめた。


「ああ、どうも~。こっちですよ~」


薄暗い店内でもサングラスを外さない男は、気の弱い人間ならば心臓を止めかねないほどの剣呑な目つきで睨むルキーノの機嫌も意に介さずにこにこと笑っている。この男に好意を持った事は一度もないが、現状のルキーノの苛立ちの直接的原因は男の隣、カウンターのテーブルに突っ伏している人物、本来ルキーノに手を振るべき待ち合わせ相手にある。

まがりなりにもデートの場所に、よりによってこれを連れて来るか。しかも、自分が来る前にすでに酔い潰れて寝ているとは何事だ。


「すみません、貴方を待っている間に飲み過ぎちゃったみたいで」
「お前が飲ませ過ぎた、の間違いじゃねえのか」
「あはは、まさか」


ルキーノの怒りをものともせずに笑い飛ばした男は、抱き抱えるようにベルナルドの肩に手を置いた。


「タイムリミットです。魔法使いがお迎えに来てしまいましたよ、シンデレラ」


そう言ってベルナルドの身体を揺さぶる手つきがあまりに優しかったので、ルキーノの額に青筋が幾本も浮かぶ。と、同時にルキーノはベルナルドの肩に添えられた青白い手の、その手首を掴んで引きはがした。いささか乱暴な仕打ちにも男は不気味な笑みをますます深めてこちらを振り仰ぐばかりで、それがまた癪に障る。舌打ち一つとともに手を放し、起こさなくていい、と怒ったままの口調で呟くと、ベルナルドの横、男とは反対側のスツールにどかっと腰を下ろした。ボーイに、グラス一つ追加だ、と言いつける。
すぐに透明度の高いグラスが運ばれてきた。ルキーノは目の前の、中身が半分減ったボトルと、中身がほとんど残っていないボトルとを睨みつけて片方を手に取った。氷も入っていないグラスに手酌で注ぐ。


「さっきのだが、配役に異議を申し立てる。魔法使いのばあさんは胡散臭いお前の方がお似合いだろ」
「いやあ、僕もおばあさんはちょっと。どうせなら僕、ネズミがいいです。ネズミ」
「却下だ。お前が馭者じゃ、かぼちゃの馬車がどこへ行くかわからん」
「ばれましたか。お城に行かないのは確かですねえ」


そこで、二人の間からくすくすと小さく笑う声が聞こえた。
両腕の上に額を乗せた体勢で伏せていたベルナルドがゆっくりと頭を起こした。


「何の話をしてるんだか」
「起きたか、浮気者」
「ひどいな。遅れてきたくせに何て言い草だ」
「仕事だったんだよ」


うん、と頷いてベルナルドは眼鏡の下の少し腫れた目を擦る。前髪の間から覗く額には丸く赤い跡がついていた。指先で前髪を軽く払い、跡ついてんぞ、と指摘するとベルナルドは再びうん、と言って目を閉じた。長い睫毛がかすかに揺れる。
目を瞑ったままのベルナルドは、隣のルキーノの肩にこつん、と頭をぶつけてきた。酒のせいか、掠れた色っぽい声でベルナルドが囁く。


「浮気なんてしてないさ。俺はお前一筋だよ、王子様」


乗せられた頭の重みが心地良い。仕方ねえから信じてやる、と返してルキーノは顔のすぐ横でふわふわと揺れるベルナルドの髪にキスを落とす。困ったようなベルナルドの笑い声もやけに甘くて、照れ隠しにすらなっていない。肉付きの悪い肩に腕を回して抱き寄せ―――。




「あ、すみませーん。キュウリのピクルスくださ~い。あとボトルもう一本追加で~」
「てっめえ……!もう帰れよ!」
「ヤですよ~。だってここの支払い、グレゴレッティさん持ちなんでしょ?ノロケを聞かされた分くらいは飲まなきゃ損です」


夜はまだ長いんですから、とネズミの馭者は笑った。