21、内密(ルキベル)
Daivan Shading Pictures。
その映画会社の撮影スタジオが、あるマフィアの本部敷地内に存在する事はあまり知られていない。
「よう、名監督。撮影は順調か?」
ルキーノは、撮影所の隅のパイプ椅子に腰かけて煙草をふかしている男に声をかける。ああ、今は休憩中だ、と振り返って言った男はルキーノに向けて自分の横の椅子を示して見せる。素直に従って座ったルキーノは、改めていつもよりも心なしかいきいきとして見える横顔を睨んだ。
「まさかとは思うが、本業を廃業してこっちに専念するなどと言い出さないだろうな、ベルナルド?」
「はは、冗談。これは趣味みたいなもんだよ。だから楽しいのさ」
答えながらベルナルドは手でこめかみの汗をぬぐった。撮影所は蒸し暑い。ベルナルドは長い髪を一つにまとめていて、露出した首筋に後れ毛が張り付いていた。「DSP」のロゴがプリントされた黒いTシャツの背中もところどころ汗で色が濃くなっている。
半袖のシャツからは細いが決して華奢とは言い難い筋張った腕が伸
びている。こんなラフなスタイルのベルナルドなど普段あまり見られない姿だ。
無意識に、手を伸ばした。ベルナルドの二の腕のあたりを掴むと、汗ばんでいるくせにドキリとするくらい冷たい感触が手のひらに浸みる。そのままゆっくりと撫でるとベルナルドはひどく驚いたような顔で振り向いて何度も瞬きを繰り返した。
「で?今撮っているのはどんな映画なんだ?」
「いわゆるSFだよ。宇宙冒険もの、かな」
答えるベルナルドの視線は落ち着きなく泳いでいる。夜になればもっといやらしい事も平気でさせるくせに何を今更。それとも誰かに見られたら困る、か?大丈夫、こんな隅の方、誰も気づいてもいない。
「主人公率いる宇宙探索隊がどこかの惑星で宇宙人と出会う話さ。そこには明らかに文明を持った知的生命体がいて、主人公はお決まりのようにその中の一人の美しい女性と恋に落ちる。そうだ、エイリアンのエキストラに若干の空きがあるんだが、ルキーノ、興味があればお前も出てみるか?」
「ジャンじゃあるまいし。だいたい俺がエ
イリアン?似合うとも思えんな」
「エイリアンと言ってもタコの火星人みたいなのじゃないよ。地球人とそう変わらない、いや、むしろもっと美しい種族、そういう設定だから」
熱く語るベルナルドはルキーノの顔に焦点を定めてちょっと目を細める。
「そうだな、髪はオールバックにしてきっちりと固めて、地肌よりもワントーン白いドーランとハイライトで表情を飛ばして。唇も血の通っていないように見えるよう色を消せば、さぞ…………、」
普段は髪で隠されている首の後ろに指を這わせる。そこはやはり汗で濡れている。
しかし、重ねた唇は乾いていた。
「さぞ?」
「……いや、やめよう。お前がスクリーンに映るのは色々問題がありそうだ」
「エキストラなのに人気が出ても困るしな」
「言ってろ」
それよりお前、こんな所で……!と小声で苦情を言うベルナルドを笑って宥める。
ただ触れたくて、我慢できなかった。
いつもと違うベルナルドに単純に欲情したなんて、今更すぎてとても言えな
いが。