20、どうにもならないほど(ルキベル)
目を開けると見慣れない白い天井が見えた。
と言っても視力が悪いのではっきりと見えたわけではない。ただ、いつもの自室で目覚めたのではないという事はわかった。薄ぼんやりとした視界で赤い影が揺れる。なんだか見覚えのある影は俺に向かって、
「気が付いたか、馬鹿野郎」
と言った。
無言で起き上がるとすかさず眼鏡を差し出してきたので受け取って装着する。そこでやっと影はルキーノになった。
ルキーノはそれ以上何も言わずにベッドの縁に腰掛ける。無表情なのは単に機嫌が悪いのか、それとも怒っているのか。本人に問うまでもなく後者だろうな、と心の中だけで苦笑する。
ここ何日かほとんど寝ていないのは確かだった。加えて少し風邪気味だという自覚もあった。しかし寝不足はいつもの事だし、仕事は手を抜くわけにはいかなかった。何せジャン名義の堅気の事業の大詰めだったのだから。それが本日やっと片付いて気が抜けたのだろう。睡魔がどっと押し寄せたのだ。
だから疲労で倒れたわけでは決してない。ちょっとベッ
ドまで辿り着けなかっただけだ。
もちろん、部下の前で意識を失ったのは失態だった。おそらく彼らは俺の自室を勝手に開ける事を憚ってこのゲストルームに運び込んだのだろう。誰に抱えられてここまで来たのか、多少気にはなるが。
別に平気だよ、と言わせない雰囲気のルキーノを見て、反省点をもう一つ付け加える。
あの場にルキーノの部下がいたのに、口止めをする余裕がなかったのも失敗だった。
「すまない」
「うるせえ、馬鹿。心配させやがって。倒れるまで無理する奴があるか」
「悪かったよ。もう大丈夫だから」
「悪いと思ってないくせに謝るな」
殊勝に頭を下げたが、ルキーノは一瞬険しい顔をして、それから怒鳴りたいのをあえて抑えつけたように深く溜息を吐いた。
反対に、俺は笑い出したくなるのを俯いて何とか堪えていた。ルキーノの、怒っている顔が好きだ。だからといってわざと怒らせる事をしているつもりはないのだが、それでも俺の事で怒っているルキーノを見ると自然と頬が緩みそうになる。
手
を伸ばして、ルキーノの袖を軽く引っ張った。
「思ってるよ。心配かけて、すまない」
再びルキーノは溜息を吐いて、乱暴に俺の頭を掴んで抱き寄せた。
厚い胸板に顔を強く押し付けられた状態で、頭の上でルキーノの声を聞く。
「お前のそういう所が、俺は嫌いだ」
うん、と俺は頷く。見えないように顔を隠して笑いながら。
それから、また怒らせる事になるだろうな、と思いながらも、好きだよルキーノ、と呟いた。