19.手枕の月(ラグベル)
「犬が欲しいな」
月光に自らの掌をかざしてベルナルドが言う。
「どんな犬をご所望で?」
私は問い返す。青白い月の光に満ちた静寂を壊さぬように、小さく笑って。
今宵は満月だ。冴え冴えとした美しく冷たい光を放つ月は少しだけベルナルドの横顔に似ている。
数か月に一度くらいの頻度でベルナルドは私の家を訪れる。
目まぐるしく移り変わる都会の喧騒からしばし抜け出すために、夜風に涼を求めて彷徨う夏の猫のように、ベルナルドはここに来る。
私はいつも、表向きは淡々と、だが密かに喜びながら彼を歓待した。
ベルナルドはうちのベッドがお気に入りらしい。窓際に置けるのが羨ましいそうだ。確かにベルナルドの住む街では物騒でとてもできないだろう。寝ている間に窓の外から銃弾を撃ち込まれる可能性もないとは言えない。
その点では、ここは安全だ。
ベッドに横になったまま月を眺める事だってできる。
「雑種がいいな。生命力が強くてしたたかで、でも意外に人懐こいといい」
「野良犬でも拾ってきたらどうでしょうか」
「でも、血統にはこだわらないが毛並みは抜群に良くなくちゃ駄目だ。長めで柔らかい黄金色で、触ると極上の手触りが指をすり抜けるような」
「ずいぶんと具体的ですねえ」
「だろう。もう名前も決まっているよ」
ジャン、というんだ。
ベルナルドは私の腕の中で、月を見つめながら愛おしそうに言った。
私達が見ている月の影はおそらく永久に重なる事はない。