18、次はない(ジュリオ)‏‏‏

次はないよ、とベルナルドが静かに言った。
足下には複数の男が呻きながら転がっている。


「本当に素人だな。マッドドッグの顔も知らないとは」


ベルナルドはこちらを振り向いて呆れたようにそう言ったが、実際に男どもを地面に打ち倒したのはジュリオではない。



市議会の有力者が主催のパーティがあった。ジュリオは名家の当主として、ベルナルドは何とかというダミー会社の取締役として出席していた。その帰りだった。
そいつらが姿を現した時、正直、殺した方が楽だと思った。どこの誰の差し金か、脅しか見せしめか知らないが明らかに同業者ではない、ただのチンピラだ。ジュリオは慣れない愛想笑いで疲れていたし、そもそも奴らは手にした鉄パイプやバタフライナイフごときで一体何ができると思っているのだろう、その頭の悪さにもうんざりした。
殺した場合の後始末とどちらが面倒か、天秤にかけている最中に隣でベルナルドが、お前は動くなよ、と囁いた。



数十秒後、チンピラどもは地に伏していた 。
無駄のない身のこなしと正確に相手の急所を突く動作はジュリオの目から見ても十分に鮮やかだった。
ベルナルドがいつものように苦笑する。


「そんなに驚かなくてもいいだろう。言わなかったか?軍隊経験者だって」
「それは聞いた、が」
「格闘訓練があってね、徒手格闘も一通り叩きこまれた。これでも成績優秀だったんだよ」
「訓練」
「そう、行軍や射撃訓練の他にも、火薬処理とかね。色々勉強になったけど、もう二度と行きたくはないな。良い思い出はないから」


そういえば、今までベルナルドが銃を撃つ所を見た事がない。まさか持っていないわけではないだろう。ひょっとすると普段使う機会がないだけで、銃の扱いも上手いのかもしれない。

ベルナルドは視線を空に投げて、独り言のように続ける。


「あそこで思い知ったのは、自分がこの上なく卑怯な人間だという事だ」


上を向いたベルナルドの口元は笑っていた。が、レンズ越しに見える瞳は笑みとは違う気もした。その表情を形容するに ふさわしい単語をジュリオは知らない。人の感情の機敏を察するのはもともと不得意だ。その上ベルナルドの考えている事なんて他の誰よりもわからない。


「ベ……」


名前を呼ぼうとした。
だが、ベルナルドがそれよりも先にこちらを真っ直ぐ見て微笑んだので、止めた。
黙ったジュリオに対して、ベルナルドは穏やかに、帰ろうかと言った。

ベルナルドを気遣うのなんか、自分の役目ではない。分かり合いたいとも思わないし、彼の過去にも興味はない。
ただ、信頼くらいはしてやってもいい、と思った。


「奴らが銃を持っていなくて良かったよ。もし銃を出されていたらジュリオの後ろにこそこそ隠れるつもりだったけどね」
「ひきょうもの……」


呟くと、ベルナルドは非常に嬉しそうに笑った。やっぱりよくわからない男だ。