15、それすら、もう(ルキ←ベル)‏‏‏

その女といわゆる深い関係になってからもう数年が経つ。
だが付き合いが長いという事は弊害もあって、彼女と寝る事は愛を確かめる行為というよりもむしろ恒例になったスポーツでもするような感覚になりつつあった。
彼女の方も少なからず似たような心境なのだろう、一糸纏わぬ姿ではあるが妙に爽やかな、さっぱりとした顔をしている。それでもわずかに残された甘い雰囲気を引き寄せるために、彼女は妖艶に笑って言った。


「この前思ったのだけれど、結婚指輪をしている男性の指って素敵だわ」
「穏やかじゃない発言だな。一体誰の事を言っているんだ?」
「別に誰でもない、一般的な話よ」


細い腰に腕を回して抱くと彼女はちょっとわざとらしいくらい華やかな笑い声を上げた。
白い滑らかな肌と、豊満なバストに比べると細すぎるくらい細い腰と手足は今も昔も変わらずベルナルドの好みにぴったりだったが、嫉妬の言葉を返したのは半ば儀礼からであった。出会った頃はこの身体に触れる度に淫靡な喜びや焦がれるような衝動をたしか に覚えたのだが。


「一般的に言うなら指輪は束縛や独占欲の象徴だからだろうね。つまり人の物は欲しくなる心理さ」
「……とっても貴方らしい考え方ね、バーニィ」


ベルナルドの皮肉な意見に、彼女はちょっと鼻白んだ様子だった。ベルナルドはこの話題に興味を失ったふりをしてブロンドの髪と首筋の間に顔を埋める。本当は彼女の機嫌の下降は結婚を仄めかす話をする機会を逸したせいだと知っていたが、慣れ、あるいは惰性というもので容易に反応し合う身体を利用して誤魔化した。
彼女の妥協の早さももはやお馴染みのものであった。






そんな話をしたせいか、次の日会ったルキーノの左手をつい見つめてしまった。
新婚のルキーノは左手の薬指にしっかりと指輪が嵌っている。
身体に見合った大きな手の、関節の骨がくっきりと浮き出た指に、ほっそりとしたシンプルな銀のリング。

なるほど、と思った。
ルキーノの長く太い指と華奢で女性的な指輪はアンバランスで、妙にそそる。心理的要因ではな く視覚的な効果だったか。

手ばかり観察していたせいで、傍目には俯いているように見えるベルナルドに向かってルキーノは、どうかしたか?と訝しんで訊ねてきた。


「奇麗な手だな」


言ってから、すぐに失言だったと気付いた。
男の手に奇麗という形容はないだろう。
だがベルナルドがそういうつもりじゃないとか他意はないんだとか言い訳がましい事を口にする前に、ルキーノは少し驚いた表情を即座に笑みへと変えて、


「ありがとう」


と言った。

照れもはにかみもない、当たり前のような真っ直ぐな笑顔だった。
それを見ながらとっさに、不倫はまずいな、と頭の隅で考える。だが、すぐにそれ以前の問題だ、とその馬鹿な思考を打ち消した。ベルナルドは、自分が曖昧に笑い返した理由をルキーノに知られるわけにはいかない、と思った。