9.警告(ルキ+ラグ)‏

どうも、と挨拶をするとその男は見るからに厭そうな顔をした。

職業柄蔑む視線を向けられる事には慣れているが、この赤毛のイタリア男が不遜な目つきで見下してくるのは相手が掃除屋だからではない。その理由を知っているラグトリフはわざとにっこりと笑みを深めた。

「昨夜はすみません。無断でオルトラーニさんをお借りしてしまいまして」
「どうして俺に謝る?」
「おや?彼のリース元は貴方かと思ったのですが、違いましたか」

その言葉に厚い二重のまぶたがすう、と細められる。
ちっとも笑っていない瞳で口角だけを引き上げた。本職らしい、迫力のある笑い方だ。

「脅しのつもりか?」
「否定しないのですね」
「目的は金か?いくら欲しい?」
「いえいえ、そんなつもりはありませんよ。ですが、そうでした。貴方がたにとっては致命的な脅迫の材料になるのでしたねえ」
「わかってるんだったら黙っとけ。お前自身のためにもな」
「それは、僕がベルナルドの不利になるような事はできない、そう思っているので?」

笑って言うと、ルキーノのこめかみが一瞬ぴくりと震えた。どうやらラグトリフの発言そのものよりも、ベルナルド、と親しげにファーストネームを呼び捨てた事が怒りを買ったらしい。
まったくもって愉快な人達だ。

「お前の事情なんぞ知らねえよ。ただ、命は惜しいだろ?」
「なるほど。余計な事を喋ったら、消されるのは僕の方だと」
「さあな。だがお前を消すのに遠慮も躊躇いも一切ないのは事実だな」
「僕がイタリア系ですらない、混血の半端者だからですかね?」
「いいや?決まってるだろ?恋敵だからだ」

肉食獣が牙を剥く時のような低い声で唸ったルキーノは、ああそれと、と言ってラグトリフに指を突き付けて言った。

「俺のものだってわかってるんなら、金輪際勝手に借りていくような舐めた真似はするな。必ず俺に断ってからにしろ」

もっとも、許可を出す気はないがな。



それを捨て台詞にしてルキーノはさっさと立ち去った。
残されたラグトリフはいつも通りの微笑みを浮かべたまま、珍しく溜息を吐いた。

「釘、刺されちゃいましたねえ」

脅迫するつもりはなかった。ただ、彼を試しただけである。
その結果が、これだ。





「男を見る目のないベルナルドが選んだにしては、随分と良い男ですね」