6.帰って来い(ジョバンニ)‏‏‏‏‏‏‏

「はい、こちら……なんだ、お前か」



一際高く鳴る電子音は、市外から掛けられてきた電話である事を示している。

それに2コールで出た隊長の声は、最初は堅すぎない程度の丁寧さと隙のない発音で、それからすぐに柔らかいものに変わった。



「そう、上手くいったようだな。ん?俺を誰だと思ってるんだ?声を聞けばわかるよ」



笑いを含んだ喋り方。隊長は社交性においても万事如才ない人だが、同時に穏やかな物腰をカモフラージュにして器用に自分の周囲にバリアを張る人だ。
だからこんな風に口を利く相手はごく少数に限られている。カポ・ジャンカルロか、もしくは他の幹部の誰かである。

今日、市外に出向いているのは確か、グレゴレッティ幹部か。



「もちろんだよ。だけどお前は電話口の言葉なんかで満足するような安い男なのか?」



この人は身内にはとてつもなく甘い。それが本人の性格なのか同胞意識の強いイタリア系組織の幹部というものの性質なのかはわからないが、部下である俺達に対しても例外ではない。
自慢ではないが、中でも長年直属の部下を務め、今や幹部候補でもある俺はそれなりに目をかけてもらっている自覚はある。
だが、俺達には間違ってもこんな親しげな喋り方はしない。

いかにも楽しそうで、どことなく甘ったるい雰囲気で。



「いつになく子供じみたわがままを言うな。惜しんだつもりはないよ。楽しみは後に取っておくもの、だろう?」



受話器を肩に挟んで帳簿を捲りながら喋っていた隊長はそこで電話を改めて持ち直した。



「わかったか。ああ、いいから早く、」



続く言葉を受話口に囁いて、ドン・オルトラーニはこれ以上ないってほど柔らかい笑顔を浮かべた。

この人のそんな優しい顔を間近で目にしたことなどなかったから、気恥しくていたたまれなくて俺は思わず目を逸らして俯いた。

それから、きっとカポやこの人達の絆は特別なんだ、と思った。そんな事、わかりきっていたけれど。



別に、羨ましいなんて思ってませんよ、隊長。

俺は優秀な部下ですから。