4.艶書(ベル+ジャン)
「モーニン、ダーリン。ご機嫌いかが……って、うーわー」
朝日よりも眩しい笑顔で俺の執務室に顔を出したジャンが、机の上で電話機をも覆い尽くす勢いで積まれている請求書の山を見てそう声を上げた。余談ではあるが、苦笑いを浮かべるジャンもまた可愛らしい。
「もしかしてまた徹夜、とか?睡眠不足は美容の大敵よ?」
「月末が近いからね。今寝ても巨大な書類の集団に追いかけられる悪夢を見そうだよ」
「なんか手伝おっか?」
「ありがたいけど、残っているのは俺でないと処理できないものばかりでね。その優しさだけで十分だよ」
「あー……じゃあ悪いんだけどさ。ほら、これだけあるんだしぃ、あと一枚くらい増やしても、いいよ、ナ?」
つつ、と遠慮がちに出された請求書に気が遠くなる。寄り目になった俺を見てジャンは慌てて、
「や!忘れてたわけじゃなくて、ちょっと、ちょおおおっと遅くなっちゃってさ……。さ、さささ、まずは受け取って」
と言い募りながらぐいぐいと俺の方に薄っぺらい紙を押
し付けてくる。かなり前の日付の記された書類に俺は決済日と収支報告の重要性について小言を言おうかと口を開いたが、申し訳なさそうに上目遣いで俺の顔色を窺うジャンが可愛すぎて、口から漏れたのは笑いだった。
「いいよ。他の奴らからのを受け取ったのに、ジャンからのラブレターを断るわけがないだろう?」
「さっすがダーリン。愛してるワ。……ラブレター?」
「請求書ばかりで気が滅入ってきたからここにあるのは全て俺宛てのラブレターだと思って気晴らしする事にしたのさ。はは、みんな俺が好きで困るよ」
「えーと、その妄想は疲労も末期って事じゃね……?あ、んじゃ、」
ジャンは机に並べてある未決済の紙の束から一枚を抜き出す。他のものに比べて金額に書かれたゼロが一つ多いそれを示して、悪戯っぽく笑う。
「一番熱烈なのは、コレ?」
ああ、さすがはジャンだ。よくぞ見抜いた。
サイン欄には、少し乱雑に綴られた、L・Gregorettiの文字。
「もちろん」
徹夜明けの頭で俺は軽く笑っ
て、インクの滲んだLに音を立てて口付けた。