3.裏打(ラグベル)‏‏‏‏

部下の案内なしに直接俺の執務室のドアをノックして入ってきたその男は、何故か一抱えほどの黄色い花を持っている。

何故か?

いや、その男、ラグトリフが花束を持っている理由を、誠に不本意ながら俺は経験上知っていた。


「その花は何かな?」
「フリージアです」
「種類をきいたわけではなくてね、」
「はい。貴方の誕生日の贈り物に、よろしければ」


どうぞ、とラグトリフは花束を差し出した。
よろしければ、と伺った割には有無を言わせない強引さだ。


「ありがとう。でもラグトリフ。花に罪はないとは言っても、いい加減、30過ぎの男の誕生日に花なんて滑稽だとは思わないか?」
「常識的にはそうでしょうねえ」
「ついでに、俺の誕生日は来週なんだが」
「知っていますよ。ですが当日はおそらくたくさんの人からプレゼントをもらうでしょう?そんな日に僕からの物なんて邪魔でしょうから」
「毎年そう言って誕生日前に花を寄越すのか。おかげでここ数年、6月の何でもない日に祝われる のが慣例になってしまった」
「それも狙いの一つですよ」
「unbirthdayを祝うのが目的だって?」
「いいえ。貴方の特別になりたいんです」


花を抱えてしばし絶句する俺に向かって、似合いますねそのお花、とラグトリフは言った。
サングラスのせいか、それともこの男は色盲だったか。こんな底抜けに明るい黄色の花が俺に似合っているはずないだろう。

花束に視線を落として苦笑する。


「……お前にも欲しいものがあったんだな」
「おや、意外ですか?僕はけっこう貪欲ですよ」


ラグトリフの手が肩に触れる。

避ける隙さえなく、俺とラグトリフの間に挟まれた柔らかな花弁が声にならない悲鳴を上げるように数枚散って絨毯に舞い落ちた。


「ああ、お返しは10月で構いませんので」


触れ合っていたのはほんの2、3秒。
至近距離でサングラスの奥の金の瞳がにっこりと笑う。



お返しだと?
じゃあ、たった今奪っていったものは何だと言うのか。

ああ、たし かにお前は貪欲だよ。